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3カ月のPoCで見えたAI導入のリアルと現実解

更新日:2025.05.01

3カ月のPoCで見えたAI導入のリアルと現実解

目次

「AIで業務をもっと効率化したい」。そう考える企業は年々増えています。
ところが実際に導入してみると、「すぐには成果が出ない」「思ったより手間がかかる」といった声が聞こえてくるのも事実です。

本稿では、当社の「AI女子」がある企業で生成AIのPoC(概念実証)に取り組んだ実例をもとに、AI導入のリアルな過程と、現場で得られた成果、そこから導き出された成功のポイントを整理します。

3カ月間という限られた期間ながらも、プロジェクトは着実に前進しました。全面的な業務自動化には至らなかったものの、厳しいセキュリティ環境の中で生成AIツールの活用幅が広がり、現場の意識にも変化が見られたのです。

AIを活用した業務効率化の基本

導入が注目される背景とメリット

「AI業務効率化」という言葉が注目されるようになった背景には、データ量の急増や働き方改革など、企業を取り巻く環境の変化があります。

導入によって期待される主な効果は、以下の3点です。

  • 作業効率の向上
    たとえば、毎日繰り返していた資料作成や数値の集計。こうした定型業務は、AIに任せることで大幅に時間を短縮できます。

  • コスト削減
    人が手作業で行っていた業務をAIに置き換えることで、工数とコストの両方を抑えることができます。

  • 分析・営業支援の強化
    AIが大量のデータを短時間で分析し、有用なインサイトを提供。これにより、マーケティングや営業の精度も高まります。

しかし、導入しただけで即座に効果が出る「魔法の杖」ではありません。現場に合わせた丁寧な設計と調整が求められます。

AI活用で注意すべきポイント

データ整備の重要性

AIは、言ってみれば「材料が命」のシステムです。質の悪いデータを与えれば、当然ながら出てくる結果も不安定になります。

特に外部から取得したデータは、フォーマットの違いや用語のゆれが大きな壁になります。たとえば「売上」と「売上高」など、意味は近くても表記が違えば、AIは別物として認識してしまいます。

そうした差を吸収するための「データクレンジング(整備作業)」が、導入初期には欠かせません。

プロンプト設計と運用ルール

生成AIを活用するうえで肝になるのが「プロンプト」です。これは、AIに与える指示文のこと。

指示が曖昧であれば、返ってくる答えもまた曖昧。逆に、明確で適切な指示を与えれば、AIは高精度な出力を返してくれます。

そのためには、目的に応じたプロンプトの設計と、その運用ルールの策定が重要です。

人による確認工程の必要性

どんなにAIが進化しても、「最後に判断するのは人」という前提は変わりません。

たとえば、AIが生成した報告書に細かい誤りがある。文脈を読み解く力がまだ足りない。そういったケースもあるため、最終的な品質を担保するためには、人の目によるチェックが必要です。

セキュリティと合意形成

AIが扱う情報には、顧客データや機密情報が含まれる場合もあります。そのため、情報の取り扱いルールや社内の合意形成をしっかり行わなければなりません。

この点を軽視すると、AI導入そのものがストップしかねません。

AI導入プロセスの全体像と実践例

ステップ1:データ整備と要件定義

今回のプロジェクトでは、まず業務全体を見渡し、「どこから効率化するべきか」を明確にすることから始まりました。

最初から膨大な社内データを一括でAIに処理させようとするのはリスクが大きい。信頼性を担保するためにも、まずは対象を限定して小さく始めるのが鉄則です。

  • 要件定義の明確化
    「どの業務を」「どこまで」AIに任せたいのか。クライアントと丁寧に話し合い、ゴールを明文化しました。

  • データ整備の優先順位決定
    AIにとって扱いやすい形式のデータから着手。Excelやテキスト化可能なPDFなどが優先されました。逆に、社外からの資料は書式の統一に大きな手間がかかりました。

  • 小規模なテスト運用
    数百件のデータを一度に扱うのではなく、まずは数件のサンプルで精度を検証。問題点を洗い出しながら、運用設計を進めていきました。

ステップ2:ツール選定と導入検証

要件定義が固まった段階で、具体的なツール導入の検討へと移ります。

  • RPAとの連携
    定型的な作業工程(例:PDFからの数値抽出)をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に置き換えることを検討中。ただし、社外資料のフォーマットゆれにより設計は想定より複雑でした。

  • 生成AIによるQA対応
    「この会社のKPIは?」といった定型質問への自動応答を試験的に導入。ただし、文書ごとの書き方の違いが結果のばらつきに直結してしまい、さらなる最適化が必要と判明しました。

  • OCRや画像解析ツールの活用
    グラフや複雑な表が含まれる資料に対して、OCR(文字認識ツール)を使った実験も実施。AIの読み取り精度には限界があり、どこまで人手を介するかの見極めが課題となりました。

プロジェクトを通して得られた成果と気づき

AI導入のスタートとして得られた前進

3カ月という短期間、しかも週2日の支援体制という限られた中でも、プロジェクトは着実に進展を見せました。

  • 一部業務の自動化設計に成功
    資料の一部をAI処理できるようにし、今後の拡張に向けた土台を築きました。

  • 生成AIツールの活用可能性を拡大
    セキュリティ制限が厳しい中、段階的な交渉とレポート提出を経て、新しいツールの利用が承認されるように。現場からも「もっと試したい」という声が自然と上がるようになりました。

  • 定例会議による迅速な課題解決
    週1回のミーティングを通じて関連部署とリアルタイムで情報共有。意思決定のスピードが上がり、トラブルの長期化も防げました。

苦労したポイント

  • データのばらつきと表記のゆれ
    似たような意味の項目でも、書き方が異なるとAIは別のものとして処理してしまいます。数百件に及ぶ資料を扱う中で、この“人間なら気づくけれど、AIには難しい違い”が何度も問題となりました。

  • 画像データの処理精度
    グラフや表の入った資料は、OCRだけでは完全には読み取れず、補正作業が不可欠でした。

  • 社内の承認プロセス
    セキュリティや社内規程への適合をどうクリアするかは最大のハードルの一つ。けれども一度その壁を越えると、他部門への展開もスムーズに進むようになりました。

AIを活用して業務効率化を進めるためのポイント

  • 内製化と外部支援のバランス
    今回のように外部人材が参画しつつ、社内でも担当者を設ける「ハイブリッド体制」は有効です。ノウハウを社内に残しながら、必要に応じて専門家の力を借りる柔軟性がメリットとなります。

  • 段階的な成功の積み重ね
    最初から全社導入を目指すより、まずは一部署・一業務から始めること。小さな成功が現場に自信を生み出し、結果的に大きな変化につながります。

  • 継続的なPDCAの実行
    「導入して終わり」ではなく、試して、直して、また試す。そんな地道な改善の積み重ねが、AI導入成功の本質です。

コクーの「AI女子」とは?

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「AI女子」は、企業の生成AI活用・浸透を支援する常駐型DX人財サービスです。

「AI女子」は生成AIはもちろんのこと、Excel、VBA、RPA、IT、デジタルマーケティングなどのスキルと実務経験を兼ね備えているプロ集団です。そのため、生成AIだけではなく、各技術を掛け合わせた本質的な課題解決・業務効率化のサポートが可能です。

数多くの企業に常駐してきた経験から、現場のボトルネック発掘や課題特定、有効施策の提案・実施、分析・効果検証を得意とし、「慎重なPoCを行い生成AIツールを導入したものの社内活用率が低い」「費用対効果が低い・社内で目立った成果がない」「人手不足でPDCAが回っていない」といった課題に向き合い、生成AI活用促進をサポートします。

生成AI活用促進のための戦略・施策策定、データ加工・作業自動化、貴社ユースケースの発掘・展開、分析・効果検証など、貴社の課題・フェーズに合わせた、最適な人財をアサインし効率的にご支援いたします。

現在、「AI女子」導入企業様で行なっている主な業務例

問い合わせ対応・ヘルプデスク運営

生成AIに関する各種問い合わせに迅速対応し、専用ヘルプデスクでサポート。

勉強会・研修の実施

定期的な勉強会や研修を通じて、社員のリテラシー向上と活用率の向上。

最新情報・事例のコンテンツ作成・発信

ポータルサイトやメルマガを活用し、最新情報や成功事例を効果的に発信。

プロンプト作成・検証

貴社独自のプロンプト作成、既存プロンプトの添削、各部署へのヒアリングを通じた高度なプロンプト作成を実施。

データ整備とRAG検証

生成AIに読み込ませるためのデータ加工・クレンジング、RAG検証。活用ログの解析や集計分析作業を請負

定型作業の自動化

VBA、RPA、GASなどを活用したスクリプト構築や、生成AIと他ツールの連携による業務効率化を推進。

業務設計・戦略策定

生成AI導入・活用促進に合わせた運用体制や目標設定の見直し、業務プロセス全体の最適化、部門間連携を強化するための仕組みづくり・推進体制構築を支援。

まとめ

今回の事例では、AIを全面的に業務へ導入するには至りませんでした。それでも、厳格な制限の中で生成AIの活用可能性を広げ、現場に「AIは現実的な選択肢だ」と感じてもらえたことは、大きな前進と言えるでしょう。

AI活用には技術面だけでなく、データの整備、社内の合意形成、運用の設計といった、非常に“地に足のついた作業”が求められます。これを怠ると、いくら優れたツールを入れても、期待した成果にはつながりません。

むしろ、どの業務をAIに任せるか、どこに人の判断を残すか。その線引きこそが、導入成功への近道です。

「AIにできること」と「AIに任せてはいけないこと」を見極めること。それが、これからの企業にとって欠かせない視点になるはずです。

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