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“現場発”で始めるDX人材育成のすすめ

更新日:2025.04.30

“現場発”で始めるDX人材育成のすすめ

目次

「DX人材が足りない」と感じていませんか?

最近、生成AIやクラウドなどの最新技術を導入しても、「思ったより効果が出ない」「現場がついてこない」という声をよく耳にします。

実は、テクノロジーそのものよりも、それを活用できる“人”の育成こそがDXの本質的な課題です。

では、どのようにDX人材を育てていけばいいのでしょうか?
この記事では、その答えをスキルと育成ステップ、実際の企業事例を交えながら、丁寧に解説していきます。

なぜ今、DX人材が必要なのか?

デジタル庁や経産省による政策支援もあり、日本企業のDXは急加速しています。
しかし、推進の現場ではこうした声が後を絶ちません。

  • AIを導入したけど、誰も使いこなせていない

  • 教育の仕組みがなく、スキルが個人に依存している

  • 一部の部署しかDXに関わっておらず、全社に広がらない

このように、「技術があっても活かせない」現状が、多くの企業に共通しています。
要するに、テクノロジーと人材のギャップが問題なのです。

DX人材に必要なのは、“専門家”ではなく“実践者”

「DX人材」と聞くと、AIエンジニアやクラウドアーキテクトのような“ハイスペック人材”を想像するかもしれません。
でも安心してください。すべての社員がそのレベルを目指す必要はありません。

むしろ大切なのは、現場で実際に使ってみる力です。たとえば、Excelのマクロを少し改良したり、チャットGPTを使って業務を時短したり――そんな小さな工夫の積み重ねが、DXの第一歩になります。

つまり、「できることから始める」が正解なのです。

DX人材に必要な「3つのスキル領域」とは?

DX人材を育てるうえで大切なのは、「どんなスキルを伸ばすのか」を正しく捉えることです。
闇雲にIT研修を増やしても、現場での変化にはつながりません。

そこで役立つのが、スキルを「技術」「ビジネス」「マインド」の3つに分けて考える視点です。
これはDX先進企業でも一般的な整理法で、育成設計の指針にもなります。

① 技術スキル:まずは“触って使える”レベルから

「技術」と聞くと、プログラミングやAI開発のような専門的なスキルを思い浮かべがちです。
でも実際には、“業務の中でちょっと便利に使える”ことが出発点です。

たとえば…

  • BIツール(Power BI、Tableau)を使って、営業数字をグラフで可視化する

  • ChatGPTなどの生成AIで、議事録やメールのたたき台を自動生成する

  • ノーコードツール(Zapier、Power Automate)で、毎日の申請作業を自動化する

  • クラウドやSaaS(Google Workspace、Dropboxなど)をチーム共有に活用する

  • セキュリティの基本(パスワード管理やフィッシング対策)を理解・実践する

いきなり高度なAI活用を目指す必要はありません。

例えるなら、いきなりフルコースのフレンチを作るより、冷蔵庫の材料でおいしい一品を作れることのほうが現場では役立ちます。

そして、この“使える経験”が積み重なることで、やがて応用力へとつながっていくのです。

② ビジネススキル:チームを動かす“調整力”と“伝える力”

技術があっても、独りよがりではDXは前に進みません。
むしろ現場で重要なのは、周囲を巻き込み、意図を正しく伝え、実行できる力です。

具体的には…

  • 他部署と協力しながらプロジェクトを進める調整力

  • 業務課題をロジカルに整理し、改善策を提案する力

  • ツールや仕組みの導入時に、周囲に使い方を説明できるコミュニケーション力

  • ToDoや進捗を管理する、ミニプロジェクトマネジメント力

たとえば、アジャイル開発やスクラムといった言葉もありますが、最初は難しく考えなくてOKです。
「Slackでチームの情報共有がスムーズにできる」「議事録をわかりやすく整理する」
――そんな小さな実践のひとつひとつが、立派なビジネススキルなのです。

特にDXは、IT部門・業務部門・経営層など、利害の異なる人たちをつなぐ取り組みです。
だからこそ、「対話」と「共感」ができる人材が求められています。

③ マインドセット:変化に向き合い、柔軟に行動する力

最後に、そして最も本質的なのがマインドセットです。
技術やスキルは教えられますが、「変化を前向きに受け止める姿勢」は、環境や文化が育てるものです。

では、どんなマインドがDX人材に必要なのでしょうか?

  • 新しいツールや考え方に臆せずチャレンジしてみる柔軟さ

  • 完璧を求めず、まずは“やってみる”ことを大切にする実験精神

  • 部門や職種の壁を越えて学ぶ“越境意識”

  • うまくいかなくても、そこから学び直せるリフレクション力

これはまさに、“失敗を糧に成長する”というスタートアップ的な考え方に近いかもしれません。

DXとは、単なるIT導入ではなく、業務のあり方そのものを変えるチャレンジです。
その過程では、必ず戸惑いや反発、予想外の壁が出てきます。

だからこそ、「正解がなくても、前に進もうとする人」をどう育てるかが、DXの成否を分けるのです。

補足:この3領域は“独立”ではなく“連動”している

ここまで読んで「技術・ビジネス・マインド、全部育てるのは難しそう…」と感じた方もいるかもしれません。
でも実は、これら3つの領域はバラバラではなく、相互に補完し合う関係にあります。

たとえば――

  • 技術スキルを学ぶことで、「もっとこうしたい」と思いが芽生え、マインドが変わる

  • ビジネススキルが身につくと、技術を“どう活かすか”を考える視点が育つ

  • マインドセットがあれば、新しい技術や仕事にも抵抗なく取り組める

つまり、この3つは人の中で自然と循環していくものなのです。

はじめはどこから取り組んでも構いません。
大切なのは、現場の実感に寄り添いながら、少しずつ前に進むことです。

 

DX人材育成のステップ:無理なく、確実に進めるために

DX人材育成は、一朝一夕で完結するものではありません。
しかし、手順さえ間違えなければ、確実に現場に根ざした人材を育てることができます。

ここでは、多くの企業で効果を上げている5つのステップをご紹介します。どのステップも、すぐに取り入れやすい形に分解していますので、自社のフェーズに合わせて段階的に取り組んでみてください。

ステップ1:目的を明確にする

最初にすべきことは、「なぜDXを進めるのか?」という目的の言語化です。
これは単なるスローガンではなく、育成戦略全体の土台になります。

目的が曖昧なままでは、「何を学べばいいのか」「誰に何を教えるべきか」もブレてしまい、結果として投資対効果が見えづらくなります。

目的例

  • 業務プロセスの効率化:紙・Excel中心の業務を自動化し、業務負荷を軽減したい

  • サービス価値の向上:顧客の声を活かしたデジタルサービスを展開したい

  • 新規事業の立ち上げ:AIやIoTなどの技術をベースに新しい収益源を創出したい

  • データ活用文化の定着:勘と経験から脱却し、意思決定をデータドリブンにしたい

ワンポイント

目的は経営層・現場・IT部門の三者で握ることが重要です。
たとえば、IT部門が「AIを使いたい」と考えていても、現場が「業務改善が先」と思っていれば、育成ニーズがかみ合いません。部門をまたいだ合意形成から始めましょう。

ステップ2:育てたい人材像を定義する

DXとひと口に言っても、求められるスキルや役割は多岐にわたります。
そのため、自社の目的に応じて「どんな人材が、どのような役割を担うのか」を具体的に描くことが欠かせません。

これは“理想像”を描くのではなく、現場に即したリアルな役割定義を行うことがポイントです。

代表的な人材タイプ

  • DX推進リーダー:部門横断でプロジェクトをリードし、実行のハブとなる人材

  • AI活用担当:生成AIやRPAを業務に取り入れ、業務効率化を支援する人材

  • データ分析者:BIツールや統計ツールを使って、意思決定をサポートする人材

  • 業務改革推進者:業務プロセスを見直し、ツール活用を通じて改善を図る人材

補足

可能であればペルソナ設計(仮想の人材像)まで落とし込むと、育成プログラム設計がスムーズになります。年齢、部署、保有スキル、業務課題などを具体化していきましょう。

ステップ3:スキルの現状とギャップを見える化する

人材像が定まったら、次は「今どこまでスキルがあるか」を把握するステップです。
この段階では、主観ではなく“定量的”な可視化がポイントです。

主な手法

  • スキルマップ:職種や業務に必要なスキルと、その習得状況を一覧化

  • 自己診断・アセスメント:EラーニングやWebツールによる簡易スキル測定

  • 360度フィードバック:上司・同僚・部下の視点から見たスキル評価

目的は「差分の把握」

現時点のスキルと、理想像に必要なスキルとのギャップを見つけることで、何を教えるべきかが明確になります。
また、属人化や思い込みを排除し、公平な育成施策が展開できます。

ステップ4:学びを業務に直結させる

いくらスキルを学んでも、実際に使わなければ身につきません。
このステップでは、学びを**“実務で試す場”とセットで提供**することが成功のカギになります。

具体例

  • 営業部門:Power BIで商談履歴を可視化し、提案内容を見直す

  • 人事部門:生成AIを使って面談記録を要約・整理する

  • 管理部門:ノーコードツールで出張申請の自動承認フローを構築

  • 企画部門:ペルソナ設計とAIアイデア出しを組み合わせた新商品開発ワークショップ

実施形式の工夫

  • 座学(基礎知識の習得)

  • OJT(実務とセットで学習)

  • ピアラーニング(同僚と教え合う)

  • PBL(プロジェクト型学習)

このように、「聞いた」だけで終わらせず、「やってみた」に変えることで、スキルは業務に根付きます。

ステップ5:成果を評価し、育成を循環させる

育成の最終ステップは、成果を定点観測し、次の育成へとつなげる仕組みづくりです。
ただし、評価のポイントは“受講したか”ではなく、“行動が変わったか”にあります。

評価の視点

  • 生成AIやBIツールなどの実利用頻度の変化

  • 業務改善提案の数や質(どれだけ現場課題を解決したか)

  • プロジェクトへの自発的参画(育成後の関与率やリーダーシップ)

  • ナレッジ共有の活発度(Slackや社内Wikiでの貢献度)

フィードバックの工夫

  • 自己評価と他者評価のギャップを共有し、学びの振り返りを促す

  • 上司からのフィードバックで業務との関連性を高める

  • 「育成で終わり」ではなく、「次のテーマにつなげる」支援を行う

成功企業の事例:身近な取り組みから大きな変化へ

富士通株式会社

「人から始まるDX」を掲げ、社員のスキルと志向を見える化。役割ごとの育成を行い、OJTや社内勉強会など、現場に根ざした取り組みで全社展開を進めています。

参考:富士通のDX人材育成(公式note)

NEC(日本電気株式会社)

NECは「DX大学」を社内に設立し、非エンジニア層も含めた育成を実施。段階的なスキル習得ロードマップや実務連動のプログラムで、現場の変化を生んでいます。

参考:NECの取り組み(公式サイト)

コクーの「AI女子」とは?

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「AI女子」は、企業の生成AI活用・浸透を支援する常駐型DX人財サービスです。

「AI女子」は生成AIはもちろんのこと、Excel、VBA、RPA、IT、デジタルマーケティングなどのスキルと実務経験を兼ね備えているプロ集団です。そのため、生成AIだけではなく、各技術を掛け合わせた本質的な課題解決・業務効率化のサポートが可能です。

数多くの企業に常駐してきた経験から、現場のボトルネック発掘や課題特定、有効施策の提案・実施、分析・効果検証を得意とし、「慎重なPoCを行い生成AIツールを導入したものの社内活用率が低い」「費用対効果が低い・社内で目立った成果がない」「人手不足でPDCAが回っていない」といった課題に向き合い、生成AI活用促進をサポートします。

生成AI活用促進のための戦略・施策策定、データ加工・作業自動化、貴社ユースケースの発掘・展開、分析・効果検証など、貴社の課題・フェーズに合わせた、最適な人財をアサインし効率的にご支援いたします。

最後に:DX人材育成は、「できることから、丁寧に」始めよう

DX人材育成に、万能な正解や近道はありません。
重要なのは、「今この現場で、何ができるのか?」を見つけ、一歩ずつ前に進んでいくことです。

高度なスキルも、特別な肩書きも、最初は必要ありません。
毎日の業務の中で、「少し便利になった」「ちょっと変えてみた」という小さな“やってみた”の積み重ねこそが、DXの第一歩です。

ただし、属人的な試行錯誤だけでは、継続的な育成は難しくなります。
ご紹介した5つのステップを軸に、人材像を描き、学びの場を用意し、成果を振り返る。そんな丁寧な設計が、無理なく確実に“変化を起こせる人材”を育てていきます。

あなたの会社にも、きっとDXの担い手はいます。
あとは、その可能性をどう引き出し、育てていくか。――それが、これからの人材戦略の要です。

 

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